複数の匿名によって携帯サイトにアクセスする別の自分、バーチャル・リアリズムの中でゲームに没頭する別の自分。ニュー・メディアは身体と同期し、複数の人格を持つことが可能となった。現実は現代社会の人々によって想像され
た世界こそが住みやすい現実となる。私たちはすでにメディアからの影響を受けて、他者と自己の境界が不明になっ
ていく、複数の中に存在する自己、複数の中に存在する自我、あらゆるメディアがインターフェースとなって私たち
を取り巻く環境が変化している。
うらうららが制作した作品(Title: I become Rei and want to line up in a showcase)は日本のアニメーション、
庵野秀明の作品、『新世紀エヴァンゲリオン』(Neon Genesis EVANGELION)に登場する綾波レイがモチーフとなって
いる。レイはテラコッタという人体の肌に一番近い焼き物の素材によって制作され、レイの身体は18種類のモンスター
に変身している。『新世紀エヴァンゲリオン』は2015年地球上に核戦争がおき、碇シンジという気弱な少年(自分)
が壮大な宇宙に存在する敵=モンスターと戦う物語であるが、実はこの物語は敵を想定しながらも「内なる他者=敵」
と闘うことを意味している。人間の存在理由を自己と他者との関係によって説明し、人間社会が過ちを犯す不幸な存在
として認め、私やあなたという区分から解き放つ。レイやシンジはアニメの中で疑っている自己の存在を真理と認め、
「我思う、故に我あり」というデカルトの思惟を引用する。レイは超自我によって、私たちは神から救われるという哲
学的なアニメーションとして『新世紀エヴァンゲリオン』はアニメ界の神話、伝説でもある。
うらうららは武蔵野美術大学の彫刻科を卒業した後、現在は同大学の大学院に所属しているが、彫刻という神話とアニ
メの神話を重ねるかのように象徴的に、展示に工夫をこらしている。また18体もの展示によって、複製化されたレイは
裸でエロチシズムを感じさせながらも、顔にオブジェや色彩が施されて見るものに、その表情を伺うことができずに不
安をも感じさせる。その不安は顔=人格が否定されるいるようにも見え、社会の属性から離れて集団化していく自分、
他者とのコミュニケーションを拒絶している自分のように、自己の不安を象徴化しているようにも見える。
『新世紀エヴァンゲリオン』は1995-1996年に日本のテレビで放映されて、当時少年少女に多大な影響を与えた。このア
ニメーションは現在美術大学を卒業する若いアーティストたち、うらうららも含めて、少年少女時代にテレビを見て影響
を受けたアニメ世代である。村上隆から森万里子、奈良佳智たちもまたアニメ世代ではあるが、彼ら30-40代のアーティス
トと違って、うらうらら世代は次の世代の新世紀アニメ世代で哲学的なストーリーを重視したアニメに共感しているのか
もしれない。
上田雄三(Gallery Q: director, curator) |